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2012年5月 9日 (水)

下視力発電所事故の影響

MRIC by 医療ガバナンス学会からの報告です。

お世話になっております。南相馬市立総合病院の原澤慶太郎でございます。

満開だった病院駐車場の桜も、いつしか葉桜となり窓の外は新緑に包まれております。  

仮設住宅に向かう道中のガレキ置き場も緑が茂り、さながら古墳のようです。

南相馬市に常勤医として赴任してから6ヶ月になります。私なりに感じている、仮設住宅で今も起きている問題について皆様にご報告させて頂きます。

年明けに一人の高齢女性に出会いました。彼女は、昨年末に我々が行った全戸訪問のスクリーニングで要再訪問となっていた方でした。ご自宅の内扉をノックしお名前を呼ぶと、中から元気な声でお返事がありました。

ところが、待てど扉が開きません。心配して待っていると、暫くしてゆっくりと扉が開きました。

私は自分の目を疑いました。彼女は家の中で這って暮らしていました。 ことの顛末はこうでした。

仮設住宅に引っ越して来てから数日後、夜間に慣れない家の中で転倒したそうです。

はじめは右足の付け根が腫れていましたが、それも引いて来たので様子を見ていたと。

なんとか坐位はとれるので食事や排泄はできているが、移動はこの通り這っている、とのことでした。

我々はすぐに各医療資源につなぎ、現在ではリハビリの成果もあり杖歩行可能なまでになりました。

震災後の屋内退避を経て、避難所を転々とし、やっと落ち着いた仮設住宅でしたが、彼らの想像以上に骨量、筋力は低下していると推察されます。彼女自身もそうでしたが、これまで農業や漁業に従事し、毎日働いてきた元気な高齢者が、職を失い活動量が低下したことにより、こういった事故のリスクは高まっています。

彼女自身の「こんなところで転ぶとは、とても思わなかった」という言葉からも分かるように、自分たちができる、あるいはできていたことが、今はできなくなってきているのが現状です。

もちろん加齢に伴う変化はあると思われます。しかしながら、この一年の急速な生活様式の変化は無視することができません。男性についても、同じことが起きています。震災前、多くの方は現役の一次産業の担い手でした。しかし、原発事故の影響で仕事再開の目処は立たず、車がある方はパチンコに勤しむ日々です。

私が赴任してからの半年で、少なくとも2店舗パチンコ屋が新装開店しました。 この問題に対するアプローチとして、現状評価と介入が必要と考えます。

当院のリハビリテーション科のプロジェクトとして仮設住宅居住者の活動量評価を始めました。活動量計という万歩計のような装置を用いて、日々の生活でいかに動いていないか客観的数値を示そうとするものです。

また今後、骨量の変化という意味では骨粗鬆症に対するスクリーニングも有効かと思います。 アセスメント後に介入対象者が明らかになった段階で、いくつかのアプローチが可能かと思います。

 

当院のリハビリテーション科では、すでに動き出しておりますが、高齢者が自分たちでもできる運動指導を行っております。

理学療法士による仮設住宅での運動指導を今後も進めて参ります。 しかし、本当に問題なのはADLが低下し動けなくなりつつある方々です。

こういった方々の、積極的な集会所での活動への参加は望めません。我々は現在、訪問リハビリステーションの設立に向けて動き出しております。

震災後、南相馬市には訪問リハビリを行っている施設はありません。日本理学療法士協会と連携しながら、特区法に基づいて病院とは独立した訪問リハビリステーションを設立すべく、県、復興庁に申請を行っております。

協会の半田会長に全面的にご支援を賜りながら、早期実現を目指して参ります。 また、現状ではADLを維持してはいるものの、活動量が大幅に低下している予備軍の方々が大勢います。

これらの方々には、activityの機会の提供が必要と考えます。パークゴルフでも折り紙サークルでも草取りでも除染でも構いません。

活動に参加してもらうにはincentiveが必要です。まだ企画立案の段階ですが、なにかこういった活動に参加して頂くなかで共通のポイントが貯まるシステムを考えたいと思っております。

夏休みの終わりに、スタンプがびっしりと押されたラジオ体操の出席表に感じた満足感が、発想の原点です。

NFCや磁気カードを用いて何かできないか模索しております。複数の新たなcommunityの創成は、高齢化社会の諸問題に対する一つのsolutionと考えます。

より発展させて、このカードにひも付けした各病院共通の診察券の機能を持たせたり、ICチップを乗せ、年齢、氏名、既往歴、内服薬、かかりつけ医、advance directive(Living Will)などの情報も盛り込めるかもしれません。

「百姓は歩けなくなったら、おしめーだ。」そういった彼女の言葉が心に残っています。寝たきりの高齢者を可能な限り少なくするためには、今一歩踏み出す必要があるかと存じます。今後とも、ご報告致します。 紹介いただけましたら幸いです。

 

 

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